オランダでパスポートを盗まれるの巻
1月9日から10連休を取得してオランダとマルタ共和国を旅行した。オランダはアムステルダム、ユトレヒトを観光した後にマルタ島に飛び、4日滞在してから再びオランダに戻り、ロッテルダム、デン・ハーグを回った。
中学生の頃からティエストやフェリー・コーステンに代表される所謂ダッチトランスが好きだったので、かねてより行きたいと思っていた。いや、だからといって、言うまでもないが、変な草は吸っていない(断じて)。
ちなみに、社会ネットワークオタク的な観点で言うと、オランダは社会ネットワーク分析が非常に盛んな地域である。SIENAやマルチレベル分析で知られるTom Snijdersはオランダの出身で現在はグローニンゲン大学に身を置いており、ユトレヒト大学にはゲーム理論を用いたネットワークシミュレーションで有名なVincent Buskensがいる。
オランダで具体的にどんなアクティビティに興じたかと言うと、『真珠の耳飾りの少女』で有名なマウリッツハイス美術館など各地の美術館を巡ったり、ハーリング(ニシンの酢漬け)っといった現地のB級グルメを食べたり、ハーグから徒歩でスヘフェニンゲン(「スケベニンゲン」と聞こえると有名な地域)の海岸まで行って黄昏れたり等々。
旅行自体は最高のエクスペリエンスだったのだが、旅行の最終日、帰国直前に事件が発生する。空港に向かう途中駅でパスポートを盗まれたのである。以下、事の顛末を簡単に記述する。
カバンを盗まれるまで
最終日はロッテルダムに滞在していた。ロッテルダムからアムステルダムのスキポール空港までは通常であれば急行が走っているのだが、ちょうど線路がメンテナンス中(そんなことあるんですね)ということで、ロッテルダムからライデンまでは電車、ライデンからスキポールまではバスで移動する必要があった。ちなみにオランダには9292という乗換案内アプリがあり、旅行前にインストールしておくと何かと重宝する。
たまたま乗った列車は各駅停車だった。車中、10日間の旅行でどれくらいの距離を歩いたのかを確認して悦に浸っていた。ふだんはカバンを前に抱えるのだが、この時は隣の席に置いていた。この点に関しては帰国直前ということもあり、油断があったと言わざるを得ない。
ある駅に停車した時、窓の方から音がする。そちらを見ると、なにやら男が切符を見せながら窓を執拗にノックしてくる。「切符を売りたいのか?それともこの切符がどこに行くのか教えてほしいのか?なんでそんなことを日本人観光客に聞くんだ?」といった様々な疑念が去来する。その間、視界の端でなんとなく「カバンが落ちた」ような気がした。刹那、男はやれやれ、といった感じでどこかに消えていく。「いったい今のはなんだったんだ?」という思いで、ふと隣席に目をやると、カバンがないことに気づく。と同時に、電車のドアの閉まる音がする。全てに気付く。ノックする男とは別の人間が見事のチームワークでカバンを持ち去っていったのである。
カバンを盗まれてから
キャリーケースを持って一目散に出口に向かい、乗務員に「カバンを盗まれたから降ろしてくれ!」と懇願する。すぐに電車から降りることはできたが、男たちの姿はなくなっていた。その駅はハーグ中央駅からやや北のDen Haag laan van NOI駅という無人駅で、監視カメラすらなかった。カバンの中にはパスポートや私物のPC・タブレット等様々なものが入っていた。
ホームの階段を半狂乱になりながら降りて、助けてくれそうな人を探す。キオスクの店員に声を掛ける。とりあえずハーグ中央駅に行けとのこと。乗るべきトラムを教えてもらう。トラムの中でも焦りが隠しきれず、それを見かねたのか若いカップルに助けられる。事情を説明すると、ハーグ中央駅まで同行して、鉄道警察に話をつけてくれるという。駅について借りてきた猫のようにカップルと警察が会話しているのを眺めていると、警察曰く、とりあえず空港に行けとのこと。
スマホと財布を盗まれないように常にポケットに手をあてながら、一路スキポール空港へ。だが、空港の警察に相談するも、何もできないそうだ。ハーグの警察署で盗難届を発行してもらうように、とのこと。ちなみに、この時奇跡的なタイミングで友人がアムステルダムに旅行に来ており、現金を借りることができた(ありがとう…)。
再びハーグに戻り、駅員に警察署がどこかを聞く。駅から約2kmほどの場所に交番があり、事情を説明し、然るべき書類に事件の詳細を書き、1時間ほどで盗難届を発行してもらうことができた。
さて、帰国のための手続きをしようにも、盗まれた日は土曜日で、月曜日までは大使館が開かない。オランダ→成田行きの便は現地時間14時なので、月曜日だとリスキーだろうということで、KLM航空のスタッフの判断で、火曜日の便を予約してもらった。
というわけで急に3泊する場所を確保しなければならなくなった。宿泊場所については、オランダに留学中の友人から、おすすめのドミトリーを教えてもらう。警察署内で予約を済ませる。こういう時は他人と喋らないと寂しさで精神が荒廃してしまうと考え、ホテルよりも多くの人がいるドミトリーのほうが良いと即判断した。
滞在したのはthe Golden Storkというハーグ中央駅近くのドミトリー。スタッフにパスポートを盗まれたと説明すると、非常に親身に相談に乗ってくれた。「色々あったと思うけど、ここは安全な場所だから」と。カナダ出身のリンゴ農家と同室になったのだが、彼も親切に話を聞いてくれた。カナダはパスポート紛失に対してかなり厳しく、再発行が認められないケースがあるという話も聞いた。取り留めのない世間話ですら心に染みる。
こういった事件に遭遇すると、周りの人間が全員敵なのではないかという疑心暗鬼に陥りがちであるが、人々と会話すると、性善説への信仰心が戻ってくる。
帰国のためにやったこと
パスポートを盗まれた場合、帰国するためには(1)パスポートの再発行と(2)帰国のための渡航書の発行という2つの選択肢がある。しかし、(1)の場合は1週間以上の時間がかかる。(2)の渡航書というのは一回限りしか使用できない帰国のためだけの緊急パスポートである。今回発行してもらったのは後者である。
渡航書発行のために必要だったもの
- 盗難届
- 戸籍謄(or 抄)本
- 日本の親族に大使館宛にFAXで送ってもらうとよい。今回は.pdfを添付する形でも受理してもらえた。
- マイナンバーカードや免許証でも構わないらしい。
- 顔写真
- 現地の写真屋で撮ってもらう。どこで撮ればいいかわからない場合はホテルのスタッフ等に聞くとよい。
- 帰りの飛行機の予約証明
- 予約の変更時にメールで予約証明書を送ってもらうように念押ししたほうがいい。
- 手数料現金20ユーロ
- 金額は国によって異なるかもしれない
やるべきだったこと
以下は今回の旅行での反省点である。
- パスポートや免許証のコピーは持っておくべき
- 電車関連
- 監視カメラつきの車両に乗る
- そもそもカバンを隣席に置かない
- 真ん中のほうの席に座る
- 各駅停車の電車にはできるだけ乗らない
- 渡航先の国外務省の情報を事前にチェックして、よくある手口を頭に叩き込んでおく
- 今回遭った手口も、調べると外務省のページで注意喚起があった。
さいごに
散々な最後になってしまったが、一ヶ月経って思い返すと非常に良い経験だった……と素直には言えない。 今は新しいPCやバッグを買い直した際の楽天カード請求額と、欠勤による減給に打ち震えている……。 (なお楽天カード付帯の旅行保険は現在審査中)