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社会的不平等は社会的機能ではない――Tumin (1953)のメモ

※大学院ゼミのレジュメ用にまとめたものです。

Tumin, M. M. (1953). Some principles of stratification: A critical analysis. American Sociological Review, 18(4), 387-394.

  • 社会的不平等の遍在性(ubiquity)と古さ(antiquity)は、そこには必然的かつ積極的に機能する何かがあるに違いないという仮定を生み出している。
  • その最も端的な例は、Kingsley DavisとWilbert Mooreによる有名な論文 "Some Principles of Stratification"にある(Davis and Moore 1945)。その主張内容は、以下の命題に集約可能。
    1. いかなる社会においても、ある特定のポジションは他のポジションよりも機能的に重要であり、そのパフォーマンスのために特別な技能(skills)を必要とする。
    2. いかなる社会においても、これらのポジションにふさわしい技能に訓練することができる才能(talents)を持っているのは、限られた数の個人だけである。
    3. 才能を技能に変換するためには、訓練を受ける者が何らかの犠牲を払う訓練期間が必要である。
    4. 才能のある人物がこれらの犠牲を払い、訓練を受けるように誘導するためには、彼らの将来のポジションは、社会が提供しなければならない希少で不均衡な報酬への特権的かつ不釣り合いなアクセスという、差別的(differential)な価値を持たせなければならない。
    5. これらの希少な報酬や望ましい報酬は、そのポジションに付随する権利や特権からなり、 滋養と快適さ、ユーモアと気晴らし、自尊心と自我の拡大に寄与するものに分類することができる。
    6. このような社会の基本的な報酬へのアクセスの差が、様々な階層(strata)が獲得する威信と尊敬の差を生むことになるのである。これは、権利や特権とともに、制度化された社会的不平等、すなわち階層化(stratification)を構成しているといえる。
    7. したがって、希少財や希望する財の量や、それらが受ける威信や尊敬の量において、異なる階層間の社会的不平等は、いかなる社会においても、積極的に機能するものであり、必然的なものである。

以下、それぞれの命題について批判的な検討を行っていく。

1. いかなる社会においても、ある特定のポジションは他の地位よりも機能的に重要であり、そのパフォーマンスのために特別な技能(skills)を必要とする。

  • 「機能的に重要(functionally important)」という語の不明瞭さ
    • 生存価(survival value)の最小値と最大値の問題と、これらの用語に与えられる可能性のある経験的な支持物(referents)があるか。
    • 任意の時点での現状は、現状に存在するすべてのものがそれ以上でもそれ以下でもないので、このような命題はトートロジーであるかどうか。
    • どのような行為や構造をどれくらいの重みで機能に貢献するものかを見積っているのか。
  • 機能性の重要度が暗黙の価値選好によって行われている可能性
    • どの職業であれ、経営者はモチベーションの問題には短期的に向きわなければならない。
    • 一部の、交渉力(bargaining power)が高い職種もあるが、それは結果として得られたものにすぎない。
  • 誘引や報酬は、数ある動機付けシステムの中の多くのバリエーションの一つにすぎない。

2. いかなる社会においても、これらのポジションにふさわしい技能に訓練することができる才能(talents)を持っているのは、限られた数の個人だけである。

  • 人口の中に存在する才能の存在と、その知識に対する疑問
    • 社会が厳格に階層化されればされるほど、その社会がメンバーの才能についての新しい事実を発見する機会は少なくなる。
      • e.g. 訓練へのアクセスが親の富に依存し、富の分配が異なる社会では、人口の大部分が自分の才能を発見する機会すら奪われてしまう可能性
  • ある世代における報酬の不平等な分配は、後続の世代におけるモチベーションの不平等な分配をもたらす傾向がある。
  • エリートは訓練や採用を制限する力を持っている。
  • 訓練や採用へのアクセスが真に平等であって初めて、 差別的報酬が機能的であることが明確に正当化されるはず。

3. 才能を技能に変換するためには、訓練を受ける者が何らかの犠牲を払う訓練期間が必要である。

  • 訓練期間における犠牲
    • 稼ぐ力の放棄(訓練期間の機会費用
      • 平均収入で比べると、エリートが訓練を受けていなかった同年齢の人々の収入を超えて稼ぐまでは、10年かかる。
      • しかし、その後20年間も続く仕事でもなお差別的な報酬が続くのは正当化されない。
    • 訓練期間の費用
      • 一般的には訓練を受ける優秀な若者の親が負担する。
      • 親が特権的な地位にある場合はそこから支払われる。
  • エリート訓練生には、名声やレジャーへのアクセスなど、精神的な報酬もある。
  • 「どのような制度の下でも訓練期間は犠牲的なものでなければならない」という仮定を主張する正当な理論的根拠はないように思われる。
    • 熟練した職業に就く人の訓練には一定のコストがかかるが、そのコストは社会全体が容易に負担することができる。

4. 才能のある人物がこれらの犠牲を払い、訓練を受けるように誘導するためには、彼らの将来のポジションは、社会が提供しなければならない希少で不均衡な報酬への特権的かつ不釣り合いなアクセスという、差別的(differential)な価値を持たせなければならない。

  • 希少で望ましい財やサービスの差別的報酬の配分が、これらのポジションに適切な人材を採用する唯一の方法なのか、それとも最も効率的な方法なのか?
    • 「仕事の内在的な満足度(intrinsic work satisfaction)」や「社会的義務(social duty)」など、別の動機も存在する。
    • このような動機の制度化が不可能であることは証明されていないにも関わらず、暗黙のうちに他の可能性を否定している。

5. これらの希少な報酬や望ましい報酬は、そのポジションに付随する権利や特権からなり、 滋養と快適さ、ユーモアと気晴らし、自尊心と自我の拡大に寄与するものに分類することができる。

6. このような社会の基本的な報酬へのアクセスの差が、様々な階層が獲得する威信と尊敬の差を生むことになるのである。これは、権利や特権とともに、制度化された社会的不平等、すなわち階層化を構成しているといえる。

  • 効果的に機能するためには3つのタイプの報酬をすべて均等に配分しなければならないのか?それとも1つのタイプの報酬が強調されて他の報酬が事実上無視されることがあるのか?
  • 報酬へのアクセスの差が威信と尊敬の差を生むかどうかは非自明。
    • 責任と報酬の合理的なバランスを維持するために重視する報酬の種類が社会によって大きく異なる。
      • e.g. 経済的優位性の差を目立たなくすることが極めて悪趣味とされる社会
    • 規範的秩序に適合する者には、逸脱者とは対照的に、差別的な威信が与えられるということである。

7. したがって、希少財や希望する財の量や、それらが受ける威信や尊敬の量において、異なる階層間の社会的不平等は、いかなる社会においても、積極的に機能するものであり、必然的なものである。

  • ここまでの議論からすれば、不平等の分配にすべきなのは権力と財産だけであると述べてもよいはずなので、威信と尊敬の差異を引き合いに出す必要はない。
  • (権力や財産に関係なく)「一人一人の人間が適切な仕事を良心的にこなす限り、一人一人の人間は他のすべての人間と同じように社会的に価値がある」という考えは、不可能であるとは限らない。

  • 社会階層の逆機能(dysfunction)とは

    • 社会で利用可能な才能の発見を制限する
    • 利用可能な才能の範囲を縮めること(foreshortening)で、社会の生産的資源に制限を設定する
    • エリートに現状追認的なイデオロギーを提供する
    • 好ましい自己イメージを集団全体に不均等に分配する
    • 社会の様々なセグメント間の敵意、疑念、不信感を助長する
    • 社会の中での重要なメンバーであるという感覚を不均等に分配する
    • 社会への忠誠心を不均等に分配する
    • 社会への参加意欲を不均等に分配する

コメント

  • 「社会的閉鎖」「地位の非一貫性」「メリトクラシー」など、そのような語が直接使われているわけではないが、社会階層論のエッセンスが詰まった論文と感じた。特に職業による交渉力の違いは、後続のGruskyらの議論にも通じるものがあるかもしれない。つまり、ある職業が「機能的に重要」と見做されやすいのは、それが政治的・歴史的に獲得されたからであるかもしれない。
  • Davis(1953)による再反論:
    • 機能的重要性について
      • 第一の命題は動機づけについて何も述べていない。
      • 厳密な測定の困難さは、その概念が無意味であることを意味しない。
      • ポジションの違いは、機能的重要性だけでなく、有資格の人材の不足の結果でもあるとはDavisらは既に主張している。
    • 才能に関する知識について
      • 野球のような組織化された選択システムは、効果を発揮するために才能に関する既存の知識を必要としない。
      • ある社会では高い地位が部分的に継承されていると言うことは、同時に威信制度が、有能な人々をその地位に引き込もうと作動していることを否定するものではない。
    • 訓練による犠牲について
      • 訓練による犠牲を上回る報酬を得られるというのは、むしろ理論を補強するものである。
      • 訓練生の精神的報酬が高いとはいえ、勉学は過酷である。
      • 優れた地位にある十分な資格を持った人材を確保することは非常に困難であるため、現代国家は費用の一部を負担しているが、すべてを負担することはできない。
    • 他の動機づけスキームについて
      • もし誰もが自分のやりたいことだけをするように選択したならば、全人口は、数種類の地位にとどまるはず。
        • 生き残った社会は、仕事の喜びを超えて、そうでなければやらないことをやる気にさせ る何らかのシステムを進化させている
      • 社会学者であれば誰でも、社会的に適切な行動を引き出す手段として、報われない利他主義が不十分であることを知っているはずである。
    • 報酬の種類について
      • ある社会が他の社会よりもある種の報酬を強調するかもしれないということで、これらは 不均等に採用されるかもしれないと言っている。これは真実であり、Davisらはそれに反していることは何も言っていない。
    • 逆機能について
      • Davisらは無期限の未来やユートピア的な未来に関心を持っていたのではなく、現在の社会に関心を持っていた。
      • Tuminの「階層化」が地位の継承という意味で使われている。彼の主張する非機能性が真実である限り、犯人は家族であり、地位による報酬の差ではない。
      • 好ましくない自己イメージは、競争的で創造的な活動への強力な刺激となる可能性があるため、これらの機能不全性は明らかではない。
  • Davis-Moore理論(の前提)を実証的に検証しようとする試みがいくつか存在する(Stinchcombe 1963; Broom and Cushing 1977)。
    • Broom and Cushing(1977)…大企業での調査の結果、会社の業績と役員報酬の間には関連が見られなかった。
  • Davis-Moore理論とそれをめぐる論争は、社会学の入門書でしばしば例として挙げられたり、北米の社会学系の学部や大学院で購読される論文となっている一方で、この理論に言及した実証研究はほぼなされないなど、階層研究の表舞台から消えていった。こうした経緯をまとめた論考であるHauhart(2003)のオチが面白いので引用する。

    For those in the profession who critically lambasted the theory (and theorists) as an "apologia for the status quo," the ultimate irony may be the fact that even in death Davis and Moore's theory continues to buttress the class divide? between those who can safely ignore the theory (theprofessorial) and those who cannot (the student). (Hauhart 2003, p.19)

参考文献

  • Broom, L., & Cushing, R. G. (1977). A modest test of an immodest theory: the functional theory of stratification. American Sociological Review, 157-169.
  • Davis, K., & Moore, W. E. (1945). Some principles of stratification. American sociological review, 10(2), 242-249.
  • Davis, K. (1953). Some Principles of Stratification: A Critical Analysis: Reply. American Sociological Review, 18(4), 394-397.
  • Hauhart, R. C. (2003). The Davis–Moore theory of stratification: The life course of a socially constructed classic. The American Sociologist, 34(4), 5-24.
  • Stinchcombe, A. L. (1963). Some empirical consequences of the Davis-Moore theory of stratification. American sociological review, 28(5), 805-808.