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Sociologically Technological, and Technologically Sociological

働きながら大学院生もやっていく(中間報告)

この記事はSansan Advent Calendar 2020 4日目の記事です。 adventar.org

はじめに

 民間企業で働きつつ大学院生としての活動を本格的に再開させてから、そろそろ1年が経過しようとしています。今回の記事ではその簡単な振り返りと、採用したサービスや取り入れた生活習慣などを紹介します。主眼にあるのは、ものすごく高い生産性で研究をするためのライフハック、ではなく、持続可能でかつストレスの少ないような研究の続け方です。誰かにとって参考になれば嬉しいです。

 もちろん、人それぞれ学問領域や大学院の制度、労働環境は異なる部分があるかと思います。私は社会学専攻であり、なかでも定量的なアプローチを採用することが多く、かつ、研究のためのデータは既存の大規模社会調査データや、修士のときに収集したデータを用いています。そのため、データ収集のために特殊な機械や施設での実験が必要な方や、フィールドワークを行っている方にとっては、仕事と研究の両立という観点ではあまり参考にならないかもしれません。そうした前提に立ってお読みいただければ幸いです。

経緯

 大学院博士課程に復学したのは、今年(2020年)の4月です。博士課程の1年目が終了したタイミングで民間企業に就職(転職)した後、2年間の休学を経ての復学となりました。就職までの経緯については、過去に公開した以下のエントリで紹介しています。

meana0.hatenablog.com

 就職してから、それなりに充実した生活を送れていたのですが、ずっと「論文を書いていない」「学位を取っていない」ことの後ろめたさが残っていました。こうした心的負荷は次第に大きくなっていき、もはや無視できるレベルではないと感じたため、20代の残り時間で論文投稿や博士論文執筆に取り組むことを決意しました。

 入社から1年半ほどが経過してから、人事評価など、折りを見て上司に復学する可能性を伝えていました。復学前から大学院のゼミには仕事終わりに週1回出席し、途中で挫折していた修士論文の投稿論文化を進めたりと、ゆっくりと大学院生活に向けたリハビリを行いました。私が通っている大学院は社会人用の夜間コースではなく、課程博士のコースなのですが、ゼミがたまたま6限に開講されていたため、定時上がりをすれば参加することができました。

 いきなり復学するのではなく、このようなバッファの期間を作ったことで、会社側と調整する時間を確保しつつ、「自分が働きながら本当に研究活動を続けていけるかどうか」を正確に判断することができました。最終的には、人事と交渉しながら、仕事を週1日休みの時短勤務にしてもらい、正式に復学しました(勤務先の企業には感謝してしきれません)。

研究・博士論文について

 ちなみに、大学院博士課程では社会学を専攻しており、主に「趣味やオンラインメディアと社会ネットワークにおける同類結合の関係性」について研究しています。博士論文では、簡単に言うと「趣味やオンラインメディアは同類結合を緩和する可能性がある」という主張をする予定です。審査に通った暁には、公開すること機会があるかもしれません。

 他分野では博士論文提出の要件として投稿論文2~3本の掲載を課している大学院も多いようですが、社会学の業界でそのような風潮は稀薄で、ほとんどの場合、投稿論文を集めたベストアルバムというよりも、重厚長大大河ドラマのような博士論文が要求されます。

 したがって、博士号取得のために論文投稿は必須のステップではありません。しかしながら、長きにわたる博士論文全体のマイルストーン的な意味合いや、各章で行っている先行研究の整理や分析を洗練させるために査読という外部システムが有用であることから、各章の内容はできるだけ論文化しようとしています。ちなみに、社会学における博士論文の書き方については、以下のnoteが非常に参考になります。

復学後にやったこと

note.com

 2020年に研究関連で行ったことを以下にまとめました。

1月 | 修士論文の内容を再構成して投稿
2月 | 博士論文第3章にあたる論文を書く
3月 | 査読結果(ラウンド1)が帰ってくる
4月 (時短勤務に変更) | 査読対応 → 再投稿
5月 | 博士論文第3章にあたる論文を書く
6月 | 査読結果(ラウンド2)が帰ってくる
7月 | 査読対応 → 再投稿
8月 | 博士論文全体の構成を検討する作業
9月 | 査読結果(ラウンド3)が帰ってくる → 掲載決定
10月 | 博士論文第3章にあたる論文を書く
11月 | 博士論文中間発表
12月 | (博士論文第3章にあたる論文を投稿予定)

 年始は3本の論文投稿(+研究ノート1本)を目標としていましたが、現実はなかなか厳しく、1本投稿(出版)と頑張ればもう1本投稿できるかできないか、という結果となってしまいました。こうして振り返ってみると、査読対応にかなりの時間が奪われていることがわかりますね…。論文投稿から出版までの過程については、後述しようかと思います。ちなみに、以下のページから拙著を読むことができますので、関心のある方はチェックしてみていただけると幸いです。

www.exeley.com

 前向きに捉えると査読対応の合間に博士論文全体の構成を固めることができたので、今後1年間はその構成を具体化できるかの勝負になってくるかと思います。

研究を続け(させ)るためにやったこと

 ここからは、この1年間、働きながら大学院での研究活動を続けるため、あるいは、自分に研究活動を続けさせるために何が必要だと思ったか、そのためにどんなサービスを採用したか、どんな生活習慣を取り入れたかについて書きます。結局のところ、自分の場合は「やる気を(再)燃焼させる」「タスクを細分化する」「生活リズムを崩さない」「好きなことを捨てない」という4点に収斂するかと思います。

やる気を(再)燃焼させる

 研究のモチベーション管理について、実を言うと私の場合は「研究が楽しくて仕方がない!」というモードははるか昔に通り過ぎてしまっています。「この研究テーマは自分以外には取り組んでいないものなので、完遂する必要がある」という使命感を持っていることは事実ですが、同時に、自分の中で燃え殻のようなやる気が消えないよう、必死に空気を送り込み、火種を絶やさないようにしているのが現状です。

 私の場合は、「やる気があるから作業する」ということはほとんどなく、「作業するからやる気が出てくる」というケースがほとんどです。一度作業を始めると、色々とやるべきことが見えてきて、結局長時間作業を継続することができます。したがって、半強制的にまとまった時間を作業する習慣を作ることが重要になります。

 そこで、ポモドーロ・テクニック(以下ポモと表記)を使っています。簡単に言うと、25分集中+5分休憩のサイクルを繰り返すことを指します。1ポモでエンジンが入ることもあれば、5ポモやってからやっとやる気が出てくる、ということもあります 。研究室の後輩がポモドーロ・テクニックについての秀逸な解説記事を書いているので、一読をおすすめします。

note.com

 ポモをするためのタイマーアプリは様々あるのですが、私はForestというアプリをスマートフォンとPCに入れています。Forestはポモのためのアプリではなく、スマホ依存を解消するためのアプリですが、優秀なポモタイマーとして使うこともできます。Forestの機能はいたってシンプルです。まず時間を決めます。ボタンを押すと木が育ち、決められた時間の間にTwitterを開いたりすると、木が枯れます(悲しい)。たったこれだけですが、n日連続で木を植え続けると称号が獲得できたり、植えられる木の種類が増えていき、作業する習慣が根付いていきます(木だけに)。

play.google.com

 Forestは、インセンティブの設計が絶妙です。単なるタイマーだと蓄積するインセンティブがありませんが、以下の画像のように作業した分だけ森が広がっていく様を確認すると、ホクホクした気分になります。作業をやめた時のペナルティが「木が枯れる」なのも良い塩梅だと思います。仮に、途中でやめると「キャラクターが死ぬ」だとあまりにかわいそうな気持ちになってしまいます。また、Chrome拡張を入れるとTweetDeckやFacebookなどのページが強制的に黒くマスキングされて見えないようになる(アーキテクチャによる行為の制限!)のも高評価ポイントです。

 下の画像は、緊急事態宣言化で毎日在宅勤務していた時の植樹記録です。通勤時間がないので、その分研究に時間が使えています。働きつつここまで作業できているのは、少しだけ自分を褒めてあげてもいいかなと思っています。このように、研究に費やした時間を可視化することは、「自分はやれている」という自己効力感を得るメリットがあります。

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タスクを細分化する

 働きながら論文を書くとなると、12時間など大きな連続領域を確保することが難しくなるため、小さなまとまった時間を確実に積み上げていくことが重要になります。そこで、タスクのほうも小さくするのがベターです。

 仕事と研究どちらでもタスクの管理はNotionで行っています。下の画像は、査読コメントから、約100個の作業内容に落とし込んだテーブルと、現在の研究活動のタスクボードです。査読コメントのテーブル場合、一つ一つの作業をタイプ別に分類しています。例えば表現に関するものであればExpressionというタグを、分析に関するものであればAnalysisというタグをつけます。タグは同時に作業の難易度も表しているので、「明日は残業するかもしれないから、Expressionの修正だけ行おう」というようなタスクの優先度をつけることもできます。タスクボードは、今書いている論文などで必要な作業の進捗をTodo, Doing, Doneに分けて管理するものです。これは自分で作ったものではなく、Notionの既存のテンプレートを利用しています。タスク管理が主な目的ですが、Doneの列にタスクが積み上がっていくと、達成感と同時に、Forestアプリの森と同じように、「やれている」という自己効力感を得ることができます。

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 最近は「あえてやり残しを作る」のも重要だと感じています。つまり、常にTodoの部分にタスクがある状態を作ることです。自分の癖として、「何をやらなければならないか」が明瞭でない状態に、最も机に向かう気力がないという経験則があります。論文を書いていると、作業をしているうちに新たな作業の必要性が明らかになってくる、ということがよくあります。そうしたタスクの連鎖をコントロールするためにも、常に向き合うべきタスクがある、という状態に置くようにしています。

生活リズムを崩さない

 研究生活の基盤を形づくるのが生活リズムです。私の体質的に、油断すると睡眠リズムは一気に崩れてしまうので、これは本当に大事です。具体的には下記のエントリで書いていることを引き続き実践しています。現代文明の力を駆使することと、休日に寝すぎないのがコツです。ちなみに先日、Nature RemoのAWS障害で会社に遅刻しかけました。

meana0.hatenablog.com

好きなことを捨てない

 また自分語りになってしまいますが、私には、抱えきれないほど多くの趣味があります。早朝に起きてモノレールに乗って野鳥観察をしたと思えば、部屋にこもってスプラトゥーン2をしたり、夜は千駄木で延々と野良猫を探したり…など、きわめて複層的で、焦点の定まらない生活を送っています。

 学生の頃はけん玉、フリースタイルラップ(の真似事)、料理、Webスクレイピング、大学の施設で無料で映画鑑賞、自転車で23区内のサブウェイを全部回ってどこのポテトが一番美味しいかを検証する…などの安価に楽しめるアクティビティに興じていましたが、定収のある生活を始めてからは、ますます好きな趣味が増えてしまいました。自分が1ヶ月後どんなことに耽溺するか、まったく予想できません。

 「いかに研究以外のことを考えるか」で悩む人も多いようですが、自分の場合は、「絡まりきった趣味生活の中に、いかにして研究活動をねじ込むか」が主な課題になります。そこでForestの活用やタスクの細分化などが有効となるわけです。

 とは言いつつも、復学する上で、多数の趣味があることは足枷になるどころか、むしろ背中を押してくれる要因になったと感じています。どういうことかというと、「これだけ好きなものがあるのだから、いつでも戻ってこれる」という謎の自信がつくためです。

 ライムスターの宇多丸さんは、先日話題になった記事でこのように語っています。

getnavi.jp

自分が好きなものをわかってる人は勝ち組ですよ、それだけで。だって、それで確実に楽しくなるんだもん。もちろん、人生いろんな局面が来るから、そこが灰色に見えだすときもある。そんなときに、いろんなチャンネルを持っているといいんですよね。『最近、オレなんか音楽にはピンとこねえな』ってときも、今はゲームなんです、今は映画なんです、今は酒なんですで別にいいんです。美味しい飯とかでもいいじゃんって

 宇多丸さんの発言とは少し離れてしまうかもしれませんが、好きなものに囲まれていると、自分の場合は「そしたら、ちょっとつらいこともやってみようか」という気分になります。悪く言えば「現実逃避」ですが、宿命的につらい時、逃避できる何かの存在は、時として現実と向き合うための勇気を与えてくれます。

さいごに

 「社会人大学院生」「二足のわらじを履く」と聞くと、ストイックな人物像や過酷な生活を連想します。「あらゆる余暇時間を削って研究に没頭する」のが理想だとは思いますが、人生は長く、来年学位を取らなければ死ぬわけでもないので、最近では適度に肩の力を抜きつつやっていけばいいと思うようになりました。振り返ってみると、習慣化して、コツコツ積み上げていくことが大事という極めてシンプルな結論に辿り着きます。小学生の時に気付きたかった事実です。

 来年もどうぞよろしくお願いいたします。